顔面神経麻痺
担当医 | 鈴木義久 医師 |
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外来 | 顔面神経麻痺再建外来(第2・4木曜日) |
顔面神経は主に顔の表情を作る筋肉(表情筋)の運動を支配している神経です。
顔面神経は側頭枝、頬骨枝、頬筋枝、下顎縁枝の4つに分かれており、麻痺すると多彩な症状が現れます。全部の神経の枝が麻痺する場合と、ある部分だけが麻痺する場合があります。

A)側頭枝の麻痺
前頭筋の麻痺により前額部のしわの消失、眉毛や上眼瞼が下垂します。眉毛の位置が下がり覆い被さった上眼瞼のために物が見えづらくなります。B)頬骨枝の麻痺
瞼輪筋が麻痺することで瞼が閉じなくなるため角膜が乾燥し、角膜炎や角膜潰瘍を引き起こし失明の可能性があります。下眼瞼が緩んで外反するため涙が出ます。C)頬筋枝の麻痺
口角や上口唇を引き上げることができなくなるため麻痺側の口唇が下垂して鼻と口の横の溝(鼻唇溝=ほうれい線)が消失します。充分な閉口ができなくなるため食べ物や飲み物が漏れてこぼれる、笑うと左右の顔面が非対称になります。D)下顎縁枝の麻痺
口角・下口唇を引き下げることができなくなるため下口唇は健側へ引っ張られて非対称の口唇形態を生じます。その他
病的共同運動:不全麻痺の場合の目が不随意に閉じるなどの表情筋の拘縮:鼻唇溝が深くなる、頬部のひきつれ感
原因
- 生まれつき
- ウィルス感染(ハント症候群、ベル麻痺)
- 神経疾患
- 外傷
- 外科手術(頭蓋内腫瘍摘出、耳下腺悪性腫瘍摘出手術など)
治療時期について
笑いの再建については、自然回復の可能性がある場合は、麻痺後1年程経過した後再建を検討します。自然回復の可能性が低い場合には、麻痺からの経過時間が短い程顔面の筋肉が萎縮しないため、早期から積極的な手術を行っていきます。
兎眼による角結膜炎を生じている場合には失明の可能性があるのでなるべく早く手術を行うことが肝要です。当科では、兎眼により結膜充血や角膜潰瘍が生じた場合には角膜知覚の再建術も行っている全国的にも数少ない施設です。この手術により病的共同運動に対してまぶたが閉じる動き(不随意の閉瞼運動)を弱くすることが可能です。
治療
新鮮例(麻痺発症後の経過が長くなく顔面表情筋の変性・萎縮が著明でない症例)
- 神経縫合術
- 神経移植術:下腿の知覚神経(腓腹神経)を一部採取し移植です。採取した部分の感覚麻痺が残りますが日常生活に支障のない部分を使用します。
- 顔面交叉神経移植術:患側の顔面神経を、健側の顔面神経の一部の枝と吻合します。
- 神経移行術:顔面神経以外の運動神経を移植し表情筋を動かします。咬筋神経と舌下神経を用います。
陳旧例(麻痺発症後の経過が1-2年以上):神経、筋などの組織移植が必要になります。
静的再建手術
変性や萎縮が著明な組織を、顔面の表情の動きは再建できませんが顔面の左右非対称を修正する目的で行う手術です。余剰の皮膚切除、大腿筋膜や耳介軟骨移植し麻痺側を吊り上げます。- 眉毛つり上げ
側頭枝の麻痺により眉毛が健側より下がります。眉毛頭側の余剰の皮膚を切除します。
しかし、健側のように眉毛は動きませんので、眉毛を挙上するような表情や目を閉じたときには左右差がでます。 - 頬部つり上げ
大腿筋膜を採取し、頬部の皮下に移植し鼻唇溝(ほうれい線)、口唇を吊り上げます。
- 眼瞼
上眼瞼も眉毛の下垂により下がってきますので余剰の皮膚を切除します。
下眼瞼も頬部の下垂により外反しますので耳介軟骨や大腿筋膜を移植して吊り上げます。
眼瞼を閉じる眼輪筋麻痺により眼が閉じられない状態(兎眼)があるときには下眼瞼のつり上げと共に上眼瞼の調整も必要になることがあります。
- 眉毛つり上げ
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動的再建手術:顔面表情筋の再建
顔面神経が麻痺してから長期間経過すると表情筋が萎縮してしまうため、神経の再建だけでは動きが回復できない可能性があります。そのような場合には筋肉を用いた再建が必要になります。神経移植を併用することで、笑いの再建を行うことも可能となっています。
まひにより下垂した部分の引き上げや顔面の表情運動作り出す目的で顔面神経以外の神経により支配される咀嚼筋(側頭筋や咬筋)や、大腿・背部・腹部などから一部の筋肉を神経と栄養血管を付けて採取して手術顕微鏡下に顔面へ移植します。- 眼瞼の機能回復
側頭筋移行術:兎眼となった場合に側頭筋の一部を上下眼瞼に移動し閉瞼させる方法です。
- 頬部の機能回復
神経血管をつけて薄筋や広背筋を移植し、健側の顔面神経や舌下神経、三叉神経などと縫合します。
- 眼瞼の機能回復
神経を縫合した部位から新しい神経が目的組織に伸長して初めて機能が回復しますので、手術から回復するまで一年以上かかることもあります。
また顔面神経は複雑な顔の表情を作る、数多い筋肉を支配する神経が束になっていますので、それらを正確に一本一本繋ぐことは不可能です。従って、手術後うまく動きが回復しても、意図した表情にならない場合がほとんどです。運動が回復してきたら鏡を見ながら表情を作る練習(リハビリテーション)を行うことが重要になります。