肺がん
肺に発生するがんで、肺そのものから発生したものを原発性肺がん(肺がん)といいます。 早期の肺がんはほぼ無症状で、検診や他の病気での経過観察や治療中にCT検査などで偶然発見されることが多いです。このような早期の肺がんは手術で完全になおる可能性が高いです。そのため、肺がんの早期発見のためには、検診や人間ドックのオプションでのCT検診がのぞましいです。
一方、肺がんは進行すると、せきやたん、血痰、呼吸困難、胸痛などの症状があらわれます。病状の進行とともに、まわりの組織に浸潤し、転移します。肺がんが転移しやすい場所は、リンパ節、肺、脳、肝臓、骨、副腎などがあります。
当院の治療方針
肺がんの診療については、まず全身的な検査を行います。
(1)肺がんであることを調べる検査。どこにどんな病変があり、どこまで肺がんを疑うか。
(2)肺がんの進行度(病期)を調べる検査。肺がんのまわりの組織への浸潤、リンパ節や他も臓器への転移の有無。
(3)全身状態の把握。呼吸機能だけでなく、心疾患や糖尿病などの有無も調べます。
これらの全身的な検査の結果をもとに、当院では呼吸器内科と放射線科、腫瘍内科との連携のもと、一人一人の患者さんに対する治療方針の多角的検討を定期的に行っています。その中で、術前合併症として、肺気腫や間質性肺炎がある場合は呼吸器内科と、心疾患がある場合は循環器内科と、糖尿病がある場合には糖尿病内分泌内科との協力で術前コントロールを十分に行い、安全な手術を準備します。
手術が可能な患者さんには、積極的に外科的治療を進めております。術前の画像検査として、呼吸2相CT と3次元画像解析システムであるSYNAPS VINCENTを導入しています。呼吸2相CT で、肺と胸壁の間の癒着の有無を評価し、手術におけるアプローチの手順を決めています。また、SYNAPS VINCENTで肺動脈と肺静脈、気管支の構造を術前に3次元で把握し、安全な手術の手順を決めています。
また、小さな肺病変に対しては気管支鏡下肺マーキング(VAL-MAP)を術前日に行い、手術時での病変の同定に役立てています。 手術の方法(術式)は「肺葉切除+所属リンパ節郭清」が基本です。しかし、非常に小さな肺がんの場合や、呼吸機能や心機能が悪い場合には、区域切除や部分切除などの「縮小手術」も行います。当科は胸腔鏡手術と開胸手術での基本手技(平行剥離など)の標準化を確立しており、安全な外科的治療の提供を心がけています(平行剥離による胸腔鏡手術)。
早期の肺がんに対しては、低侵襲である胸腔鏡手術を標準術式としています。一方、進行期肺がんに対しては、縦隔鏡などで縦隔リンパ節転移の確認も行い、拡大手術も含めた外科的切除と化学療法(抗がん剤)、放射線治療をそれぞれの患者さんに合わせて行う集学的治療を行っています。
薬剤治療については、分子標的治療や免疫チェックポイント阻害剤、抗がん剤の有効性に関係するバイオマーカーを評価し、それぞれの患者さんに有効と思われる薬剤治療を選んでいます(バイオマーカーによる肺がん個別化化学療法)。 このような肺がんの積極的な治療とともに欠かせないのが、症状の緩和や心のケアです。緩和ケアチームや地域医療サービスセンターと連携して積極的なケアも行っております。