胸の中央部が凹んでいる変形を漏斗胸といいます。肋軟骨の変形が原因とされていますが、不明な点も多い疾患です。乳幼児から気づかれる方や、成長とともに目立ってくる方など様々ですが、約1000人に1人の頻度で起きるといわれており、稀な疾患ではありません。家族内発生もあり遺伝的な要素もあると考えられています。 凹みの程度によっては風邪症状が長引いたり、喘息様の症状が出ることがありますが、多くの場合、幼児期には凹み以外の症状はありません。思春期以降では胸痛や労作時の呼吸苦などを認めることがあります。身体的な症状がなくても、特に学童期・思春期では凹み自体が心理的・社会的に大きな問題となることがあります。
胸を張って開く運動、例えば水泳などは肺活量を増やして胸の形を良くします。ある程度は有効ですが、凹みそのものが著しく改善するわけではありません。
漏斗胸患者さんは胸の凹みを気にして猫背のことが多く、これは余計に胸の凹みを目立たせてしまいます。軽度の陥凹であれば姿勢を良くするだけであまり目立たなくなります。
前胸壁に大きな吸盤をつけて陰圧をかけて胸壁を持ち上げる方法です。有効性は報告されていますが、長期間(3年間)、毎日続ける必要があります。
当院では1998年にアメリカのNuss先生が報告した低侵襲手術手技である胸腔鏡補助下胸骨挙上術(Nuss手術)を行っています。両側の胸部に3~4cmの皮膚切開を入れ、チタン製のバーを胸骨の裏に通して内側から凹みを持ち上げます。入院期間は1週間前後ですが、成人では疼痛管理のために延長することがあります。バーは1年半~3年後に手術で抜去します。
傷は両脇にあるため正面からはあまり目立ちません。
手術は全身麻酔で行います。この手術は骨を矯正する手術のために術後に痛みが強く出ます。この痛みを抑えるために硬膜外麻酔(背骨の間から細いチューブを入れ、痛み止めを持続的に流す麻酔)を併用します。
手術後はバーのズレを予防するために安静が必要になります。術後1ヶ月から軽い運動(ラジオ体操が目安)が再開でき、術後3ヶ月たてばバーが安定するため基本的に運動制限がなくなります。
手術を行う年齢は12歳以上が良いとする意見も多いですが、当科の経験では小さいお子さんの方が陥凹の矯正がしやすく、術後の痛みも少ない印象があります。この手術の後には陥凹部の挙上に伴って肋骨の変形が目立つことがありますが、成長期に手術を行うと矯正後の成長によって、肋骨変形の改善が期待できます。この時期に手術を行うと再陥凹率が高いとされていますが、やや過矯正気味にすることで対応しています。術後は3か月程度、運動が制限されますので学校生活や仕事への影響も考える必要があります。中学生以降でも手術は問題なく可能ですので、ご本人、ご家族と相談して適切な手術時期を決めています。