小児科研修プログラム
プログラム指導者 秦 大資
1. プログラムの目的と特徴
- 小児科臨床医の養成を目的とする。2016年度の新入院患者数 約3,000名と症例数が豊富であり、また、小児科各分野専門医(小児免疫・アレルギー、循環器、腎臓、感染、血液、神経等)がそろい、各分野の専門的指導が受けられる。研修終了時、以下 1. から 4. に記載した項目につき達成できていることが期待される。
- 未熟児、新生児より思春期、時には成人の病態の的確な把握と迅速な処置が可能で、疾患が各年齢において推移、変化しうることを理解できる。
- 患者のみならず、その疾患の社会的背景および保護者の心情を十分に理解できる。
- 自主的、積極的かつ謙虚に疾患および患児より学ぶ姿勢を身につける。
2. 指導体制
主として日本小児科学会専門医の資格を有するスタッフが日々の指導を行なう。入院患者については指導医の指導のもとに担当医として診療にあたる。毎日のカンファレンスにて、担当した患者の疾患の領域の専門医が指導を行なう。
3. 研修および到達目標
<1> 研修
- 第一期
- A) 小児科病棟勤務
- 臨床医としての診療態度、基本的知識、技術および患児やその保護者との応対、治療計画、内容、病状の説明方法などの基本的訓練を受ける。
- 受け持ち患者に関しては看護婦の病棟カンファレンスに出席する。
- B) 未熟児室勤務
- 低出生体重児、病的新生児の基本的な診療および小児外科疾患、術前術後の管理を研修する。
- ● 具体的にはA)、B)とも受け持ち患者の主治医ではあるが、指導医のマン・ツー・マンの指導のもとに病棟勤務にあたる。
- 第二期
- A) 小児科病棟勤務
- 受け持ち入院患者の主治医となり、指導医の指導を受け診療を行う。
- 各専門外来に助手としてつき専門技術、診療を学ぶ。
- 小児科当直医とともに当直勤務を行い救急医療を実践する。
- B) 未熟児室勤務
- 低出生体重児、病的新生児の主治医となり指導医の指導のもとに勤務する。
- 超未熟児を指導医とともに診療する。
<2> 到達目標
第一期
患児、家族への接し方、問診、診察、カルテの記載、診断書類などの記録方法などの基本的事項と緊急時の対処に関しての講義と実践の指導を受ける。5名前後の患児を受け持ち、小児科医としての基本技術および考え方を訓練する。特に内科、放射線科、小児外科、脳神経外科等の外科系、産科など他科および看護婦をはじめとして臨床心理部門、検査室、放射線技師、栄養士、薬剤部、事務管理部門など他の職種との共同作業により、小児科が成り立ってゆくことを充分に理解する。
受け持ち患者に対する看護婦の病棟カンファランスに参加することにより診療と看護の一体化を考える態度を身につけ、病児および保護者のニーズを理解しようとする態度を身につける。当院では検査室の業務となっている脳波、心電図、一般検尿、末梢検血、髄液一般検査、細菌培養などの基本的手技も習得する。
第二期
小児科患児の主治医として指導医の指導のもとに検査、治療の方針を決定し実行する。ターミナルケアに関しても研修する。専門外来に指導医とともに診療にあたり、より高度な手技、診療技術を習得する。極小未熟児の主治医となり未熟児の的確な診療を学ぶ。また、小児科外来当直および超未熟児の診療を指導医とともに行い気管内挿管、呼吸管理などの手技と迅速な救急医療を訓練する。超未熟児の診療機会はかなり少ないと考えられるので第一期においても超未熟児が出生した場合は指導医とともに診療助手をつとめることもある。
<3> 各分野毎の到達目標
下記の項目につき、自ら、あるいは指導医の指導のもとに実施できるようになることを目標とする。
- 一般症候
小児の一般的主訴: 症状について小児の各年齢の特性を理解した上で、それらの問題解決が適切に行える。
- 成長、発達
小児の各年齢における成長発達の特徴を理解し、これらを評価できる。
- 栄養、栄養障害
小児栄養の特徴を理解し、栄養診断及び栄養指導ができる。栄養障害について適切な処置がとれる。
- 水、電解質
体液生理、電解質,酸塩基平衡について小児の特殊性を理解し,その病態の診断と治療ができる。
- 新生児
新生児特有の疾患と病態を理解して適切な処置が取れる。母乳栄養と正しい母子関係について理解する。
- 先天異常(遺伝・染色体異常、奇形症候群)
代表的先天異常、染色体異常についての知識を有し、一般診療の中で、家族のカウンセリング、遺伝相談の基本的知識を身につけている。
- 先天代謝異常症,代謝性疾患
代表的先天代謝異常については充分理解している。稀なものについて
は、それにアプローチできる基本的知識を有している。小児特有の代謝を理解し,その病態の診断と治療ができる。先天代謝異常マス・スクリーニングについて理解し、異常が疑われる場合の対応ができる。
- 内分泌
内分泌動態の成長発達に及ぼす影響を認識し、一般診療の中で内分泌疾患のスクリーニングと治療の方針を理解している。
- 生体防衛・免疫
各年齢における生体防衛の特性を理解し、免疫系の欠陥の大よそを診断できる。免疫不全の治療法の知識を有している。
- 膠原病・リウマチ性疾患
普遍的な疾患については、正しい診断と標準的治療が出来る。複雑なものについては診断の限界を理解して、適切な対応がとれる。
- アレルギー
I型アレルギーを中心とし、その他のアレルギー機序も含めて、その上に発症する疾患の診断、治療が行える。
- 感染症
主な感染症の疫学と病態を理解し、診断と治療が出来る。また感染症の予防のため家族および地域に対して適切な処置がとれる。
- 呼吸器
主な呼吸器疾患の診断と治療が出来る。主要な検査、特に呼吸機能検査法の基本を理解している。
- 消化器
よく見られる消化器症状、消化器疾患について診断と治療が出来る。緊急度の高い消化器疾患および外科的疾患については適切な処置が出来る。
- 循環器
代表的疾患について概略の診断と重症度の把握およびその管理ができる。
- 血液
よくみられる貧血,白血球異常,出血素因について、適切な鑑別診断を行い、治療ができる。
- 腫瘍
小児の主要な悪性および良性腫瘍の初期診断ができる。又、その診断と治療の原則を理解している。
- 泌尿器
頻度の高い腎その他泌尿器疾患について診断と治療を行う。慢性疾患については、成長発達を考慮に入れた治療管理ができる。緊急の場合の適切な対応ができる。
- 生殖器
生殖器の異常を適切に診断し、必要により専門家に橋渡しできる。
- 神経・筋
各年齢に応じた神経学的診察法、必要な検査法を身につけ、代表的神経疾患、筋疾患について早期発見と適切な処置ができる。
- 精神疾患(精神・行動異常)、心身医学
小児の精神科領域の主な疾患と心身症に対して適切に問題解決ができる。
- 救急
数多い小児の救急患者の重症度を的確に判断し、速やかに適切な処置がとれる。
- 関連領域
関連領域の知識を広く持ち、他科への紹介の適応と、その時期を誤らない。
4. 教育課程
- 臨床カンファランス:毎日、早朝、入院中の患者のなかから研修上有意義な症例について、検査、治療等につき検討し、指導医、各専門医の指導を受ける。
- 病棟カンファレンス:週1回、病棟入院患者全員の症例検討を行い、主治医として、プレゼンテーションを行う。
- 各専門医によるレクチャー:研修開始時、また、研修上有意義な症例の主治医となった場合適宜行う。
- 院外および他科の講師による講演会
- 院内集談会(年2回)での発表
- 小児科学会および関連学会・研究会での発表と、発表症例の論文作成を行う。
- 小児科週間予定・特殊外来およびカンファランス
|
午前 |
午後 |
月曜日 |
臨床カンファレンス |
血液外来 予防接種外来 病棟カンファレンス |
火曜日 |
臨床カンファレンス 病棟回診 |
1診 循環器外来 2診 神経外来 |
水曜日 |
臨床カンファレンス |
1診 夜尿および腎臓外来 2診 アレルギー外来 |
木曜日 |
臨床カンファレンス 未熟児センターカンファレンス |
1診 乳児検診 2診 神経外来 |
金曜日 |
臨床カンファレンス 未熟児センター回診 |
1診 免疫・アレルギー外来 2診 循環器外来 |
土曜日 |
臨床カンファレンス |
|
5. 評価方法
小児科研修時の指導にあたった研修指導医の意見を参考に、統括責任指導医にあたる小児科部長により行なわれる。
担当研修指導医、統括責指導者との面談を通して、知識の習得、診療技能、検査の実施または解釈、診療態度につき評価を受ける。