呼吸器センター研修プログラム
プログラム指導者 福井 基成、黄 政龍
- 呼吸器センターの研修を通じて、どのように患者に接し、どのように患者の訴えに対処していくべきかなど臨床医としての基本態度を学ぶ。患者に対しても、家族に対しても、社会に対しても、そして自分に対しても常に真摯な姿勢で臨むことが重要である。さらに臨床医として共通の知識や技術修得にも努める。
- 平成19年6月から呼吸器内科と呼吸器外科は統合し、呼吸器センターとなった。内科・外科の垣根がないシームレスな診療を目指している。研修医も同様に内科系・外科系を問わず患者を一貫して担当する。
- ただ、以下においては便宜上、内科系と外科系に分けて研修プログラムを記載する。
内科系
1. プログラムの目的と特徴
- 当科研修の最大の目標は、上気道、下気道、肺、胸膜、胸腔、縦隔、横隔膜などからなる呼吸器の特徴と特異性を認識した上で、各呼吸器疾患を理解し、患者の呈する症状と身体所見、検査所見に基づいた鑑別診断、初期治療を的確に行う能力を獲得することである。また、診療に必要な基本的手技や問題解決能力の習得を目指す。
- 当科の特徴として、肺癌、肺炎、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息、間質性肺炎、血管炎など非常に多彩な呼吸器疾患の患者が数多く入院される。研修期間中は多忙を極めるが、様々な呼吸器疾患の診療にあたる機会を大切にしていただきたい。なお、呼吸器症状は、呼吸器疾患のみならず、他疾患の一症状として現れることもある。これらについても、他科との良好な連携のもとに併せて学ぶことができるのも当科の特徴の一つである。
2. 指導体制
- 原則として日本呼吸器学会認定専門医の資格を有するスタッフなどとの二人〜三人主治医・担当医制をとっており、日々の診療においてマンツーマンの指導が行われる。その他のスタッフも適宜指導に加わる。
- 呼吸器カンファレンスや新患カンファレンスなどで症例を提示してもらい、個々の症例に即した指導を行う。
- 週末の部長とのミーティングなどによって、1週間の疑問点、問題点を解消する。
3. 具体的な到達目標
1) 診察法
- a) 外来・入院患者の病歴・現症
結核やアトピー性疾患の既往歴・家族歴、喫煙歴、職業歴やペット飼育・住居状況、現在の病状に至った経過を正確に聴取、把握する。
特に頻度の高い発熱、咳嗽・喀痰、呼吸困難、喘鳴、胸痛などの症状を詳細に問診することにより、鑑別診断につなげていく。
- b) 身体所見
呼吸器疾患患者特有の栄養障害や、チアノーゼ、呼吸異常(奇異性呼吸や無呼吸を含む)、下腿・足背浮腫の有無、呼吸音の異常などの所見を正確に捉え、診断に役立てる。
2) 検査法
- a) 喀痰の細菌検査・細胞診
- b) 種々の血液検査
- c) 動脈血ガス分析
- d) SpO2モニタリング(夜間、終日、運動時)
- e) 呼吸機能検査:スパイロメトリー、DLCO
- f) ツベルクリン反応、各種抗原による皮内反応
- g) 胸部単純X線、胸部CT検査、MRI検査、RI検査(骨シンチ、肺血流シンチ、Gaシンチ)
- h) 胸腔穿刺
- i) 気管支鏡検査
- j) CTガイド下肺生検・エコーガイド下肺生検
3) 呼吸器疾患各論
【緊急を要する疾患・病態】
- a) 急性呼吸器感染症(急性気管支炎、急性肺炎、インフルエンザ、急性胸膜炎など)
- b) 気管支喘息発作
- c) 慢性閉塞性肺疾患などの急性増悪やその他の急性呼吸不全
- d) 緊張性気胸、大量胸水
- e) 誤嚥
【臨床経験が求められる疾患・病態】
- a) 肺癌
- b) 呼吸器感染症(肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、肺真菌症など)
- c) 気管支喘息
- d) 慢性閉塞性肺疾患
- e) 拘束性肺疾患(間質性肺炎、膠原病肺など)
- f) 慢性呼吸不全
- g) 呼吸異常(睡眠時無呼吸症候群、過換気症候群など)
- h) 肺循環障害(肺塞栓症・肺梗塞症、右心不全)
- i) 胸膜、縦隔、横隔膜疾患(自然気胸、胸膜炎、胸水など)
- j) その他(サルコイドーシス、肺血管炎、好酸球性肺炎、過敏性肺臓炎など)
4. 教育課程
1) 研修医が参加する週間予定・教育活動
- 呼吸器合同カンファレンス (毎週月曜日 午後5時半〜6時半)
- 呼吸器内科系新患カンファレンス (毎週火曜日 午後5時〜6時)
- 呼吸器内科系抄読会 (毎週水曜日 午前8時20分〜9時)
- 内科系部長回診 (毎週水曜日 午前9時半〜午後)
- 気管支鏡検査 (毎週月・水曜日午後1時半〜4時)
- CTガイド下生検 (毎週水・金曜日 午後3時〜5時)
- 内科抄読会 (毎週木曜日 午後6時〜6時半)
- 内科症例検討会、CPC (毎週木曜日 午後6時半〜7時半)
- 内科系 部長とのミーティング (毎週金曜日 午後6時〜7時)
- その他、研修開始に際しては、研修医オリエンテーションが行われる。院内の様々なシステムや接遇、院内感染対策などについて学ぶ機会であり、参加が義務付けられている。
2) 研修医が参加して有益と思われる活動
- NST(nutrition support team)勉強会・回診 (毎週木曜日 午後5時〜6時)
- 京都大学呼吸器内科症例検討会 (年数回)
- 日本内科学会近畿地方会 (年2回)
- 日本呼吸器学会近畿地方会 (年2回)
- 地域包括呼吸ケアを考える会 (年2回)
- 大阪北肺疾患勉強会 (年3回)
- 呼吸疾患同好会 (年2回)
- 阪神合同CPC (年2回)
5. 評価方法
研修医の到達度に関する最終評価は、呼吸器内科研修時に指導にあたった研修指導医や病棟師長の意見を参考に、統括責任指導医にあたる呼吸器内科部長により行われる。
評価項目として、(1)研修医による自己評価、(2)受け持ち症例に関するカルテやサマリーの記載状況・考察、(3)呼吸器疾患に関する臨床経験、知識・技術の修得状況、(4)医師に求められる診療態度・人間性など、(5)カンファレンス、研究会などでのプレゼンテーションや議論内容、(6)文献検索能力などが挙げられる。
6. その他
研修1-2年目は、医師に求められる人間性・診療態度などを修得する極めて重要な期間である。多忙な毎日にあっても、常に患者中心の診療を忘れないことが最も大切である。
外科系
1. プログラムの目的と特徴
呼吸器外科診療により呼吸器、縦隔、胸郭の病態、症状を理解すると共に臨床医としての基本的な知識や技術、患者に対する対応を身につける。
特に癌死亡の第1位となっている肺癌の診断,治療についての知識は将来他領域に進むに際しても役に立つと思われ、また外科専門医の取得に必須の症例を経験できる。
上級医師の指導のもとに呼吸器外科入院患者の担当医となり各種検査、手術、術後管理を経験し、診断の付け方、手術適応の決定過程、術後治療などを経験し、診療の進め方を理解する。
各種カンファレンスに出席し診断能力の向上に努め、各科との連携、治療方針決定への過程を学ぶ。
2. 指導体制
日々の指導は原則として日本外科学会指導医、日本胸部外科学会認定医、日本呼吸器外科学会認定専門医の資格を有するスタッフが行う。研修医は受け持ち患者の症例レポートを作成し、これを元に部長は毎月1回、研修医と面談し、到達度や問題点について話し合う。
3. 具体的な到達目標
代表的な疾患や病態、検査法、手術法別に経験 修得すべき事項
1) 頻度の高い症状
- A) 胸痛
- B) 呼吸困難
- C) 咳嗽、喀痰
- D) 嗄声
- E) リンパ節腫大
各種疾患で見られる上に挙げた症状を直接経験、観察し、その病態を理解する。
2) 緊急を要する症状、病態
- A) 心肺停止
- B) ショック
- C) 急性呼吸不全
個々に挙げた状態は可急的治療を要するため挿管、心マッサージを始めとする救急処置を学ぶ
3) 経験が求められる疾患、病態
- A) 呼吸器疾患
- ・原発性肺癌、転移性肺癌、良性肺腫瘤、気胸等を経験しその症状、病態の理解に努める。
- ・画像診断として胸部XP、CTの読影の仕方、それに基づく手術適応を含めた治療の決定を学ぶ。
- ・呼吸器の基本的検査である気管支鏡検査を経験し、所見のつかみ方、挿管技術を学ぶ同時に検査部で呼吸機能検査を自ら行いその困難さを理解し患者への対応の参考とする
- ・担当患者が受ける検査で血管造影、カテーテル検査、CTガイド 下生検、超音波検査等あれば実施医と共に経験する。
胸腔ドレナージ、中心静脈カテーテル挿入、胸膜癒着術を指導医と共に経験する。
- ・気管切開、心嚢ドレナージ、鎖骨上窩・頸部・腋窩リンパ節生検、胸壁腫瘤生検の介助を行い手技を習得する
縦隔鏡、胸腔鏡、開胸手術(肺部分切除、肺区域切除、肺葉切除、肺全摘除、肺縫縮術、嚢胞
切除、気管・気管支形成術、肺動脈形成術、胸膜肺全摘術、膿胸の手術など)の介助を行い、開胸、閉胸が出来るようにする。
- B) 縦隔、胸郭疾患
- ・縦隔腫瘍(胸腺腫を始め、神経原性腫瘍やリンパ腫、各種嚢胞性疾患)重症筋無力症、手掌多汗症、胸郭変形、胸壁腫瘤などを経験し、病態の理解に努める。
- ・胸部XP,CTの読影、手術適応の決定過程を経験する。
- ・胸壁手術(漏斗胸などの胸郭変型にたいする手術、胸壁腫瘍摘除術など)、縦隔手術(縦隔腫瘍摘除術、拡大胸腺摘除術など)、胸部交感神経切断術の介助を行う
- C) 術後治療
扱っている疾患の7割は悪性疾患のため術後治療が必要な場合が多い。肺癌の場合呼吸器内科と連携して行っている。これら癌患者の化学療法や放射線治療の適応の判断、実施を経験する。
4. 教育課程
1) 研修医が参加する週間予定・教育活動
- 月曜日午後1時30分より気管支鏡検査、または午後2時より外来生検
- 月曜日午後3時30分より術前症例検討会、引き続き問題症例検討会
- 月曜日午後5時30分より呼吸器内科、放射線科との合同呼吸器カンファレンス
- 金曜日午後4時より抄読会
- 上記以外毎日午前中に病棟回診
5. 評価方法
研修医の到達度に関する評価は、呼吸器外科研修時に指導にあたった研修指導医の意見を参考に統括責任指導医にあたる呼吸器外科部長により行われる。
評価項目として(1)研修医による自己評価、(2)受け持ち症例のレポートに加えて、(3)担当研修指導医・統括責任指導医との面談の中で臨床経験、知識、態度など医学的経験や知識に加えて呼吸器外科医に望まれる人間性を含めた評価を受ける。
6. その他
当診療科に於ける研修の特徴
呼吸器外科の診療を行っており、最近の癌罹患率で男性第一位である肺癌、女性第三位の肺癌を主に扱っている。また肺気腫にたいする容積縮小術も行っており、気胸や重症筋無力症を含んだ縦隔腫瘍も多く、手掌多汗症など多彩な疾患の経験が可能で、これらの外科的治療を経験することにより、全体としてバランスの取れた研修が可能となる。ローテート中には各疾患の基礎的病態、症状の把握、呼吸器外科、とは何をしているのかを経験していただきたい。