2008. Nov. 8

 なぜか雨にたたられることの多いクレソンの会。この日も朝から雨でした。前回の奈良行きでひどい寒さを経験しただけに、京都の冷え込みに耐えられるようにと、予定していたものよりも少し厚手のジャケットを羽織って家を出発。病院のロビーに集まってくるみんなも、同じ思いから、しっかりと暖かい服装でした。さらに看護師の川崎さんが人数分のカイロを用意してくれていて、防寒対策は完璧。何よりもこの心遣いがうれしくて、旅への気分が盛り上がってきました。
 「源氏物語」が世に出て1000年の今年、源氏物語千年紀にちなんだ催しが各地で開かれています。そこでクレソンの会でも世間のブームに乗っかって、源氏物語ゆかりの地を巡ることになりました。
 予定の時刻に病院前を出発したバスは、源氏物語の末尾十帖の舞台である宇治へと向かいました。最初の参拝先は平等院です。平等院を訪れるのは2005年の秋のツアー以来2度目のことですが、前に来た時と展示内容が少し様変わりしていました。特に目を引いたのは、コンピュータグラフィックスで鳳凰堂内部の彩色を復元した画像で、赤や緑の鮮やかな模様が描かれた建立当時の様子をうかがい知ることができます。千年紀を取り上げたテレビ番組でこの界隈がしきりに紹介された影響か、宇治川の土手はこの日も多くの人出でした。

このあとバスは北へ向かい、京都市内に入りました。この日の昼食場所は、南禅寺前の「順正」。重要文化財の書院や美しい日本庭園を持つ湯豆腐のお店です。ここの湯豆腐は、シンプルなのにたまらなく美味しくて、みんなで土鍋を囲んでいるうちに、雨に冷えたからだもホカホカと温まってきました。昼食を終え、みんなで南禅寺の三門をくぐるころにはすっかり雨も上がり、紅葉の始まった境内はなんとも美しいたたずまいでした。このような場所に身を置くだけで心が洗われるようで、さらに国宝の方丈庭園や絵画が日常を忘れさせてくれました。

再びバスに乗り、向かったのは廬山寺。京都市の中心部にあるこの小さなお寺は、名前を聞くのも初めてでしたが、紫式部が暮らし、源氏物語を執筆した邸宅址だということ。ちょうど千年紀協賛事業のひとつとして「紫式部の、その時代とその世界展」が開催されていて、数々の絵巻物や十二単などが展示されていました。白壁に囲まれた庭には、苔と白砂で雲の図柄があしらわれていて、落ち着いた雰囲気ながらかわいらしい印象を受けました。

 
       
 秋の日が翳り始めた頃、この日最後の訪問先、嵯峨野の清凉寺へ到着しました。このお寺は、光源氏のモデルとされる源融の別荘として建てられたもので、広い境内には本堂、阿弥陀堂、多宝塔など美しい建物が並びます。その時、参加者のひとりが「お豆腐を買わないと!」と言って、門から駆け出して行きました。追いかけて聞いてみると、釈迦堂総門のすぐそばにある「森嘉」は、とても有名なお豆腐の老舗だそうで、その日の分が売り切れると時刻に関係なく店を閉めてしまうとか。そんな情報をゲットしてじっとしている訳がないクレソンの会のメンバー。全員が後に続いて木綿豆腐を手に入れました。結局、この日は昼食も夕食も極上の湯豆腐だったというわけです。
  手術を機にクレソンの会の存在を知り、参加を心待ちにしてくれていた人。化学療法を受けながらも体調と相談しながら参加してくれた人。お孫さんや親御さんのお世話を一日休んで駆けつけてくれた人。そして、夕方に講義を控えていながら京都で合流してくださった稲本先生。
みんなに大切に思ってもらったおかげで、この日もクレソンの会は和やかムード。目から吸収した美しい景色とみんなの楽しいトークで、今回も心に残る一日になりました。