2008. May 10
 長く心待ちにしていた春のツアーの当日は、夜明け前からしとしとと雨が降っていました。テレビをつけると気象予報士が「今日の天気は一日を通して“雨”、最高気温は3月並みの13℃です」と、容赦のないことを言っています。さらにニュースでは、この日、訪日中の胡錦濤国家主席が、こともあろうにわたしたちの訪問先である法隆寺を視察すると報じているではありませんか! どのような展開になるのか、とにかく行ってみよう! というわけで、バスは予定通りに病院前を出発し、最初の訪問先である法隆寺へと向かいました。
 しかし、いくらも進まないうちに「法隆寺では9時から一般参拝者をシャットアウト」との情報が入り、ドライバーさんと相談のうえ進路を薬師寺へ切り替えることに決定。道路の両側に警官が立ち並ぶ物々しい警備体制の中、お気楽な我々を乗せたバスは西ノ京を目指したのでした。
 法隆寺参拝をあきらめて薬師寺へ直行したおかげで、朝の法話の時間に間に合いました。高田好胤管主の発願で、写経勧進により金堂、西塔、中門、回廊、大講堂が再建されたいきさつを、僧侶がユーモアたっぷりに聞かせてくれました。また、金堂に安置されている薬師三尊像について「薬師如来は、皆の身と心の病気を癒してくれる仏様です。わかりやすく言うと、薬師如来がドクターで、日光菩薩が日勤の、月光菩薩が夜勤の看護師というところ」だそうで、これにはみんな爆笑でした。
 ところが、その日光菩薩・月光菩薩は、6月8日まで東京上野の東京国立博物館で開催されている「国宝薬師寺展」へ出張中。本来両菩薩がいらっしゃる場所には、等身大のパネルが立てられていました。少し寂しそうなたたずまいの薬師如来像に向かい「両菩薩がお揃いの時に、必ず出直して参ります」と手を合わせておきました。
  この日は、年に2回だけ一般公開される、平山郁夫の「大唐西域壁画」の公開期間にあたっていました。これは、玄奘三蔵が長安を出てから天竺へ至るまでの旅が描かれている13枚の絵で、絵身舎利、つまり仏様としてここに祀られています。傘をさして外へ出ると、いつか間近で見たいと願っていた薬師寺東塔が、雨の向こうにしっとり静かな姿を現していました。その形の美しさもさることながら、1,300年以上もこの場所に存在し続けたことに深く感動したのでした。
 
       
 薬師寺前のレストラン「萬京」で薬膳の昼食をすませた後、次の訪問先明日香村へと向かいました。この日の体験は「いちご狩り」です。農園へ到着し収穫用のハサミを受け取ると、さっそく赤く熟れたいちごを求めて、暖かいビニールハウスの中を奥へ奥へと進んでいきました。赤い宝石と呼ばれる「あすかルビー」は、実がやわらかく甘酸っぱくてとてもおいしいいちごでした。後でリサーチしたところ、みんな最低1パック相当は食べていた模様です。さすが。その後バスはいちご園からさほど離れていない石舞台古墳へと向かいました。ボランティアのガイドさんの話によると、この古墳には30個以上の花崗岩が使われていて、総重量は約2,300tということです! いったいどうやってこの場所へ大きな石を運んだんだろう? 薬師寺東塔といい、この古墳といい、この日は古代日本人の精神の強さに圧倒され、頭を下げたい気分になりました。
 5月とは思えない冷え込みや、胡錦濤国家主席との鉢合わせ、強まる雨に甘樫丘の見学を断念…と、書いてしまえば散々な一日だったように見えますが、実はそんなことはありません。集まれば元気になるクレソンの会のメンバー。バスの中はいつもどおりの大盛り上がりでした。
後日、できあがった写真を見返してみると、ひとり残らずいい笑顔! カラダは芯まで冷えたけど、みんなのおかげでココロがほっこり温まった一日でした。