クレソンの会
2005.November.12
 11月12日は、クレソンの会のメンバーにとって待ちに待った「秋のツアー」の日。夜明け前まで激しく降っていた雨がカラリと上がり、絶好のツアー日和になりました。この日わたしたちが訪れたのは、滋賀県大津市の月心寺。ここの庵主(村瀬明道尼)さまは、NHKの連続ドラマ「ほんまもん」で、料理人を目指すヒロインが師と仰ぐ女性(野際陽子演じる桜井泉恵尼)のモデルとなった方で、月心寺は、この庵主さまの手による精進料理をいただけることでも有名です。9歳で仏門に入り33歳で道ならぬ恋をし、さらには交通事故で九死に一生を得るという波乱の半生を送ってこられた村瀬庵主から「心に残るお話を聞けるのでは」という富山先生のご提案で、このツアーが実現しました。
京都市と大津市を隔てる逢坂山にある月心寺には、病院から約1時間半で到着しました。目の前を国道1号線と名神高速道路、京阪京津線が並走する騒々しいロケーションにありながら、お寺の門をくぐるとそこは別世界。美しく活けられた秋の花とかぐわしいお香が、わたしたちを迎えてくれました。
 お部屋に通されて間もなく、さかずき一杯のお酒と共にごま豆腐が振舞われました。「村瀬庵主は毎朝午前1時に起き、1時間ほどをかけてごまを擂る」と話に聞いていたので、そっと口に入れて「天下一」といわれるその香りをじっくり味わってみました。続いて赤だしのお味噌汁、ふっくら炊き上がったきのこご飯、柚子をあしらった蓮もちのあんかけ(感動の味!)などが運ばれてきました。さらに、野菜の煮物や和え物が大鉢で次々と出されますが、今となっては思い出せないほどの種類の多さです。それらすべての素材にそれぞれ違った繊細な味付けが施されていて、いつか本で読んだ「野菜は美味しく炊いて美味しくいただくことで成仏する」という庵主さまの言葉はまさにこのことなんだと実感することができました。驚いたのは、「どんどん召し上がってくださいね」と、燗をつけたお酒が大振りの徳利で出されたことと、料理の量の多いこと。これらは、わたしが抱いていた精進料理のイメージをくつがえすものでした。食べ切れなかったお料理は、お寺で用意してくれたパックに詰めて持ち帰り、自宅でもう一度ゆっくりと味わうことができました。
 
  心づくしのお料理をいただき、お菓子とお抹茶が配られるころ、午前中の作務衣姿から一変して、紫の衣を凛と身にまとった庵主さまが現れました。日本語の乱れを鋭く批判したり、お布施の額をあっさり打ち明けてしまったりという痛快なお話しをされたあと、こんなことをおっしゃいました。「人は死にたい時には死なれへん。死にたくなくても死んでしまう。心配せんでも皆さん必ずいっぺん死にます。生きている限り化粧をして、財産を残さず、笑ってさいなら言えるようにしときなはれ…」。39歳の時に交通事故で瀕死の重症を負い、右手と右脚の自由を失ってしまった庵主さまのこのお言葉が、魔法のように、やっかいな病気と闘うみんなの心をフワッと軽くしてくれたのでした。
  食事の後、自由にお庭を散策させてもらいました。山の斜面を利用して作られた立体的な庭は苔むし、雨にしっとりと濡れて、なんとも美しい様相を呈していました。また、池に落ちる一筋の滝は、庭の中央にある本井戸から流れ出るそうで、その姿は神秘的ですらありました。癒しのオーラに満ち溢れた月心寺のお庭と村瀬庵主さま。心に残る出会いでした。
 月心寺を後にしたわたしたちは、バスで20分程移動して宇治平等院を参拝しました。世界文化遺産である鳳凰堂は千年の歴史を持つ厳かなたたずまい。前に立つだけで気持ちがしゃんとします。また、「平等院ミュージアム鳳翔館」で見た52体の雲中供養菩薩像がとても印象的でした。飛ぶ雲に乗って楽器を演奏したり舞ったりする菩薩の妖艶な姿、特にその手指の形から、平安時代の美意識をうかがい知ることができました。

お寺でのみ得られる、心が洗われるようなすがすがしい感動は、日が暮れて病院前に到着してもさめることはありませんでした。
 おなかいっぱい、ココロもいっぱい! 本当にステキな秋の一日でした。