糖尿病・内分泌内科研修プログラム
プログラム指導者 濱崎 暁洋
1.基本理念
卒後臨床研修の基本理念は、将来の専門性に関わらず全ての医師に必要な基本的な診察能力、判断力を身につけることにある。糖尿病内分泌内科では、どの科の医師であってもほぼ全員が合併症例を経験し、その知識が求められることとなる糖尿病や、頻度の高い内分泌疾患の、診断・治療について必須となる基本的事項を習得するとともに、救急対応時を含めたプライマリ・ケアにも重要な、内分泌代謝疾患の基礎的な考え方を理解することを目標とする。
2. プログラムの目的
- 糖尿病内分泌内科診療を通じて、内分泌代謝疾患の特徴を理解しながら、臨床医として共通の基本的な知識・技術・態度を身につける。
- 上級医師の指導のもと、糖尿病内分泌内科入院患者の担当医となり、病棟診療・検査等を担当し、基本的な診療過程の進め方を学ぶとともに、各スタッフや患者家族とのコミュニケーションを通した情報収集・問題解決へのアプローチ能力を養う。
- 各種カンファレンスや学会活動に参加することにより、基本的プレゼンテーション能力の向上を図る。
3. 研修の到達目標
<1>一般目標:以下を理解し習得する。
- 糖尿病について
- 1) 糖尿病の定義・診断(OGTTの適応、HbA1cなどの検査指標の理解)
- 2) 糖尿病の分類(成因分類と病態分類)と合併症
- 3) 糖尿病の治療(食事・運動・薬物療法と療養指導)
- 4) 低血糖の治療(適切な対応と低血糖の鑑別)
- 5) 糖尿病性昏睡(DKA, HONK, 低血糖性昏睡)の治療
- 内分泌とは
- A)ホルモンの定義
- B)内分泌系の基本的構築
- C)受容体について
- 内分泌疾患をどういう場合に疑うか(プライマリ・ケアの観点から)
- 内分泌疾患の分類
- 内分泌検査値の読み方
- 内分泌負荷試験
- 脂質異常症・肥満症(診断(二次性のものを含めた原因)と治療)
<2>行動目標
- 糖尿病患者の診療に際し、良好な医師・患者関係を確立し、合併症の発展・進行を抑制するための治療目標に到達するための治療および患者の問題点の把握方法を学ぶ。
- 内分泌疾患診療を通して、疾患を疑うためのアルゴリズム、身体的特徴・検査所見の特徴、治療についてを学ぶ。
<3>経験目標
- (1) 経験すべき診察法・検査・手技
- A) 糖尿病
- ● 体得すべき知識・検査・手技
- 1) 糖尿病の定義・診断(OGTTの適応、HbA1cなどのマーカーの理解)
- 2) 糖尿病の分類(成因と病態)
- 3) インスリン分泌能、インスリン抵抗性の意義と検査法
- 4) 低血糖の症状と鑑別(インスリノーマなど)
- ● 体得すべき治療法
- 1) 糖尿病の食事・運動療法の意義と実際
- 2) 経口血糖降下薬・GLP-1受容体作動薬の種類、作用機序、使い分け、副作用
- 3) インスリンの適応
- 4) 低血糖の治療
- 5) 糖尿病性昏睡(DKA, HONK, 低血糖性昏睡)の治療
- B) 視床下部・下垂体
- ● 体得すべき知識・検査・手技
- 1) 前葉および後葉の機能の理解
- 2) 前葉および後葉の負荷試験
- 3) 視床下部・下垂体の画像診断
- ● 体得すべき治療法
- 1) 機能低下症の補償療法
- 2) 腫瘍の治療法の適応(外科的治療と内科的治療)
- C) 甲状腺
- ●体得すべき知識・検査・手技
- 1)甲状腺の触診法
- 2)甲状腺機能検査法
- 甲状腺機能低下症、橋本病とその他の原因
- 甲状腺機能亢進症、バセドウ病の診断と他の原因
- 甲状腺エコーの手技と吸引細胞診の適応
- 甲状腺シンチの種類と適応
- 甲状腺癌の診断について
- ● 甲状腺癌の診断法体得すべき治療法
- 1) 甲状腺剤・抗甲状腺剤の投与法と副作用
- 2) 甲状腺癌の治療法
- D) 副甲状腺および骨
- ● 体得すべき知識・検査・手技
- 1) 原発性副甲状腺機能亢進症と二次性副甲状腺機能亢進症
- 2) 副甲状腺機能低下症
- 3) 骨粗鬆症の診断法(DEXA法)と続発性骨粗鬆症の原因
- 4) 悪性腫瘍に伴う高Ca血症の原因
- ● 体得すべき治療法
- 1) 原発性副甲状腺機能亢進症の手術適応
- 2) 副甲状腺機能低下症における治療
- 3) 骨粗鬆症の治療
- E) 副腎
- ● 体得すべき知識・検査・手技
- 1) 副腎皮質機能低下症のスクリーニング、その原因
- 2) 副腎偶発腫瘍の検査と手術適応
- 3) 内分泌性高血圧のうち副腎疾患(クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞種)の鑑別法
- ● 体得すべき治療法
- 1) 副腎皮質機能低下症の補償療法
- 2) 副腎偶発腫瘍の手術適応
- F)性腺
- ● 体得すべき知識・検査・手技
- 1) 性腺機能低下症の症状(無月経、不妊、ED)と原因
4.研修指導体制
日々の指導は、日本糖尿病学会会員・専門医、日本内分泌学会会員・専門医のスタッフが行う。
5.週間スケジュール
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月 |
火 |
水 |
木 |
金 |
土 |
午前 |
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抄読会
カンファレンス
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カンファレンス
回診 |
外来(交代) |
午後 |
病棟カンファレンス
甲状腺エコー
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甲状腺エコー |
※内科CC |
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※:当院内科の行事
6. 到達度評価
研修医の到達度に関する評価は、糖尿病内分泌内科研修時に指導にあたった研修指導医の意見を参考にプログラム指導者により行われる。
評価項目には(1)「研修医による自己評価、(2)受け持ち症例のレポートとともに、(3)診療場面や回診・カンファレンスの中から評価しうる知識、技能などに加え医師として望ましい診療姿勢や研修に取り組む姿勢が含まれる。
7. 当診療科における研修の特徴
当科では、多数の診療患者、近隣医療機関との病診連携を背景に、多くの糖尿病症例と、大変幅広い領域にわたる内分泌疾患について学ぶことが可能である。また生活習慣が治療に大きく関わる分野であるとともに、高齢社会の中で持続可能な治療・療養を探るプロセスが求められるが、そのためには多職種のコメディカルスタッフを交えたチーム医療がますます重要となっている。当科でははやくからその取り組みが行われており、研修のなかでチームに参加することで、これからの診療の在り方を考える視点の涵養に役立つ。研究の側面でも、臨床・基礎研究を行って、多くの学会発表・論文発表に取り組んでおり、早くから学術的探求の「面白さ」にも触れることができる。