250703_北野病院100年史_並製本_単ページ
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0782024(令和6)年5月、当院歯科口腔外科主任部長の髙橋克を中心とする研究グループは、先天性無歯症に対する歯の再生治療薬、通称「歯生え薬」の医師主導治験を開始すると発表した。先天性無歯症は、生まれつき歯が欠損している疾患で、6本以上欠損がある場合(発症頻度0.1%)は遺伝が大きく関係していると考えられる。顎骨が発達する幼少期から無歯症となるため、食べる機能が低下するなど、成長にも悪影響を及ぼす。成人後の義歯・歯科インプラントといった代替治療しかなく、根治療法の開発が待望されている。「歯生え薬」開発のきっかけは、2007(平成19)年、USAG-1タンパクの遺伝子欠損による過剰歯モデルマウスが発見されたことだった。かねてから歯の再生研究に取り組んでいた髙橋は、このタンパクの働きを抑えれば、ヒトが元来持つ第3生歯(永久歯の次の歯)の成長を促せると考え、USAG-1を標的分子とする中和抗体を開発。2018年、マウスへの投与で歯の回復を確認し、研究に弾みがついた。2020(令和2)年、髙橋は歯の再生治療薬の研究開発・上市を目的とする京大初のベンチャー企業、トレジェムバイオファーマー株式会社を共同設立。2022年、第3者割当増資で4億5,000万円の研究開発資金を調達した。また2021年には、ウェルエイジング経済フォーラム主催の「エイジテック2021アワード」で「歯生え薬」が優秀賞を受賞。メディアなどでも注目されるようになった。2021年、研究グループは歯の再生治療薬「TRG035」を開発し、2024年11月から健常者を対象とするFirst-In-Human試験を京大病院で開始した。2025年からは先天性無歯症患者を対象とするフェーズ2a試験を当院で行うなど、有効性・安全性を確認した後、2030年の実用化を目指している。USAG-1中和抗体投与前(マウス)USAG-1中和抗体投与前(フェレット)USAG-1中和抗体投与後(マウス)USAG-1中和抗体投与後(フェレット)北野病院の先進治療③ ~「歯生え薬」の治験スタート~column

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