公益財団法人田附興風会 医学研究所北野病院

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治療について(耳鼻咽喉科・頭頸部外科)

北野病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科では、耳鼻咽喉科領域全般にわたる疾患に対し、世界水準の質の高い医療を提供することを使命としています。なかでも再生医療や聴神経腫瘍手術や頭蓋底手術、頭頸部癌など高度な技術を必要とする治療を得意としております。なお聴神経腫瘍(下記)に関しては当科の専門外来の受診をお勧めします。

再生医療

気管・喉頭再生医療

気管再生医療は、甲状腺がんなど頭頸部がんの気管浸潤による気管の再建や外傷などによる気管狭窄に対する人工気管による再生医学的治療法です。

神経再生医療

神経再生医療は、がんや外傷などで切断された神経(顔面神経、反回神経など)をチューブ状の人工神経管を用いて再生させる治療法です。

鼓膜再生医療

さまざまな原因で生じた鼓膜穿孔(鼓膜の穴)を、組織工学的手法で、従来の治療のように皮膚などを切開せず行う再生医療です。
治療の流れについてはこちらをご覧ください。

乳突蜂巣再生

乳突蜂巣再生は、難治性慢性中耳炎に対し、ご自身の骨や人工材料の移植による慢性中耳炎の根本的治療法です。真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎を根本から治療する再生医療で、厚生労働省の感覚器障害事業の一環として支援を受けています。

聴神経腫瘍専門外来

聞こえの神経(蝸牛神経)と体のバランスを取る神経(前庭神経)の総称が聴神経です。これらの神経から生じる腫瘍を聴神経腫瘍と呼んでいますが、多くは前庭神経から発症します。
腫瘍は、小さいうちは無症状ですが、大きくなるにつれ耳鳴り、ふらつき、難聴などが自覚されるようになり、顔面神経麻痺や顔面のしびれ、歩行障害など徐々にその症状が重篤になって最終的には生命を脅かすほどになります。
10万人に1人の発症率と言われていますが、MRIの検査によって非常に小さい腫瘍でも発見されるようになり、実際はもう少し発症率が高いようです。

治療

聴神経腫瘍の治療法には、ガンマナイフやサイバーナイフなどの放射線による治療と、手術による治療があります。
放射線による治療は、おもに高齢者や他の病気を抱えて手術が難しい患者さんが対象となります。体に優しい治療ですが、何度もできる治療ではなく、再発があった場合は、手術が一層難しくなるなど難点もあります。
一方、若い方や腫瘍が速い速度で大きくなってきている患者さんには、今後の腫瘍増大が大きな障害をもたらすことになりますので、腫瘍摘出手術を行います。
腫瘍が小さく、症状が軽微な場合、年2回の聴力検査と年1回のMRI検査で経過をみ、症状が強く出たり、腫瘍の増大傾向がある場合に以下のような手術治療を行います。

当科の手術治療方針

聴神経腫瘍の手術は、大きく分けると以下の3つの方法があり、当科ではいずれの治療法も行うことができます。

  1. 経迷路法

    耳(耳介)の後ろからアプローチする方法で、耳介の後ろの骨を削って腫瘍に達します。この手術法は、聴力を犠牲にしますので、腫瘍のために極端に聞こえが悪くなった方が対象です。中程度の大きさまでの腫瘍が対象ですが、他の術式と比較して術後が楽であるというメリットがあります。

  2. 中頭蓋窩法

    耳(耳介)の上からアプローチする方法で、耳介の上の骨を外して、脳を引いて腫瘍に達します。主に内耳道にある小さい腫瘍が対象で、聴力も顔面神経も温存できる可能性の高い手術ですが、術野が狭く難しい手術のひとつです。この方法は脳外科と共同で手術を行っています。

  3. 後頭蓋窩法

    耳(耳介)の後下方からアプローチする方法で、耳介の後下の骨を外して、腫瘍に達します。視野が良く大きな腫瘍にも適する手術で、聴力も顔面神経も温存できる可能性の高い手術ですが、内耳道の先は見えにくくなり、この部位の腫瘍を取り残しやすいのが難点です。この方法も脳外科と共同で手術を行っています。
    いずれの治療法でも、まず生命を守り、出血や術後の感染などを起こさせないこと、次に顔面神経麻痺を発症させないこと、そしてできる限り聴力を温存することを心がけて手術を行っております。これまで、当科で行った手術で、出血や術後の感染などを起こした例はなく、とくに永続的な顔面麻痺が発症した患者さんもいません。聴力に関しては、治療開始時の聴力が様々ですので一概に言えませんが、中頭蓋窩法での聴力温存率は80%以上です。とくに顔面神経・聴力温存に関しては、世界最先端のモニタリングシステムを用いきめ細かな手術を行っております。
    以上、当科では、腫瘍の大きさや位置、症状の程度と患者さんの年齢や状態に応じた最善の治療法を選択できます。また、治療内容を詳しくご説明差し上げ、十分に納得した上で治療を受けていただいております。

頭蓋底腫瘍

耳は外耳、中耳、内耳という部分にわかれており、耳の周囲の骨を側頭骨といいます。当院では外耳、中耳、内耳、側頭骨を含めた広範囲にわたる様々な種類の病気を対象として検査・診断・治療を行っております。出来る限り機能温存を目指すとともに、新しい方法を積極的に取り入れて皆様のQOL改善に貢献できることを目標としております。

耳領域の病気

耳は外耳、中耳、内耳という部分にわかれており、耳の周囲の骨を側頭骨といいます。
当院では外耳、中耳、内耳、側頭骨を含めた広範囲にわたる様々な種類の病気を対象として検査・診断・治療を行っております。出来る限り機能温存を目指すとともに、新しい方法を積極的に取り入れて皆様のQOL改善に貢献できることを目標としております。

~外耳の病気~

外耳道の良性腫瘍や真珠腫などに対しては極力、耳の中からの操作による手術をおこなっております。また、100万人に1人の割合で、外耳道に悪性腫瘍、つまり外耳道癌が発生することがあります。外耳道癌の治療は手術、放射線治療、化学療法の中から複数の方法を組み合わせた治療を行います。当院では外耳道癌のようなまれな病気に対する治療も行っております。

~中耳の病気~

慢性中耳炎(真珠腫、慢性化膿性穿孔性中耳炎、癒着性中耳炎)

慢性中耳炎には大きくわけて鼓膜穿孔と耳漏をともなう慢性化膿性中耳炎、骨を破壊しながら増大する真珠腫性中耳炎、鼓膜の陥凹と癒着をともなう癒着性中耳炎があります。いずれも難聴や耳漏の原因となります。慢性中耳炎の治療では病変の除去と音を伝えるしくみの修復を行う鼓室形成術という手術治療が主体となります。特に真珠腫の場合は、放置すると周囲の骨を溶かして進行し、中耳にある三半規管や顔面神経がダメージをうけ、めまいや顔面神経麻痺を発症することがあります。さらに脳と中耳を区切る頭蓋底(中耳の天井)の骨が破壊されると、頭蓋内合併症(髄膜炎・脳膿瘍など)を起こすことがあります。
鼓室内の換気(空気の入れ替え)がうまくできないままでは、いくら音を伝える骨をつなげても鼓室内に水がたまったり、鼓膜がへこんでしまって音をうまく伝えることができません。そこで当院では、通常の鼓室形成術だけでなく、鼓室内の換気に重要役割をになう乳突蜂巣とういう部分の再生手術も行っております(全例ではありません)。長期間にわたって中耳を良い状態で維持することを目指した手術治療を行っております。この治療法は、厚生労働省感覚器障害事業の支援を受け施行されている近未来型の再生医療です。

【耳小骨の問題によって生じる病気】

中耳には耳小骨という小さな骨が連結した部分があります。ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨という3つの骨が関節で連結し、鼓膜から内耳へと音を伝えています。
うまれつき、この骨の連結や形状が通常と異なる中耳奇形や、アブミ骨が硬くなり、音を内耳に有効に伝達できない耳硬化症、外傷などの衝撃で耳小骨の関節がはずれてしまう耳小骨離断などがあります。側頭骨ターゲットCTという非常に薄い厚みで撮影できるCTや3D CTという立体構造を描出できる検査によって耳小骨の形状を事前にある程度予測できる場合もあります。手術によって耳小骨の状態を確認し、状態に応じて耳硬化症の場合はピストンというアブミ骨のかわりになる骨を留置します。中耳奇形や耳小骨離断の場合は、人工耳小骨や自家骨を用いて音を伝えるしくみをつくりなおす場合があります。
その他、中耳コレステリン肉芽腫、中耳腫瘍などに対する手術治療も行っております。

~内耳の病気~

【突発性難聴】

朝起きたら片方の耳が聞こえにくくなっていた、電話の声が急に聞き取れなくなったなど、突然片方の耳が聞こえにくくなるのが突発性難聴です。原因は不明ですが、内耳でのウイルス感染、内耳の自己免疫障害、内耳での循環障害などが考えられています。
突発性難聴は内耳有毛細胞が障害されて起こる感音難聴の1つですが、厚生労働省研究班の調査から、発症後2週以内に治療を開始すれば、6〜7割の症例で治癒または改善が期待できることが示されています。
一方で、治療開始が遅れた症例、発症時にめまいを伴っている症例、発症時に難聴の程度が高度だった症例では回復率が悪いとされています。当院では、ステロイド製剤、脳循環代謝改善剤、ビタミンB12を用いた治療を行っております。
さらに、内耳に直接ステロイドを投与する治療も行っております。

【めまい】

当科では内耳の平衡器の問題によっておこるめまいを主に取り扱っています。めまいをおこす内耳の病気としては耳石の不具合でおこる良性発作性頭位めまい症、ウイルスなどの影響といわれている前庭神経炎、内耳リンパの増加によるといわれているメニエール病などが代表的なものです。現代社会においてはストレスの影響によっておこる心因性めまいというものもありますし、病名や原因がはっきりわからない場合もあります。めまいの種類や程度によっては眼振検査、カロリックテスト、重心動揺検査など種々の検査を組み合わせた平衡機能検査を行っております。めまい症状に対する薬物治療などを行っています。

【メニエール病】

メニエール病は内耳のリンパという液体が増加し、蝸牛や平衡器にダメージが及ぶことによって生じるといわれています。典型的な場合は難聴など耳の症状とともにめまいが生じ、これを反復します。浸透圧利尿剤、循環改善薬、抗めまい薬などによる薬物治療が主体となりますが、それでも効果が乏しい場合は、内リンパ嚢開放術という、リンパが貯留する袋を開放する手術を行う場合があります。
その他、低音障害型難聴に対する薬物治療や外リンパ瘻に対する薬物治療・手術治療なども行っております。

~その他~

【顔面神経麻痺】

顔面神経が麻痺すると顔面の筋肉(表情筋)が動かなくなって顔が曲がった状態になり、左右が非対称となります。顔面神経麻痺には中枢性と末梢性があり、耳鼻咽喉科では末梢性顔面神経麻痺の診断・治療を行っています。末梢性顔面神経麻痺の主なものは、原因不明の特発性顔面神経麻痺(いわゆるベル麻痺)と水痘・帯状疱疹ウイルスによるハント症候群です。
顔面神経麻痺では突然、顔半分の麻痺が起こり、眼が閉じられなくなり、口角から食物がこぼれたりします。また味覚の低下、流涙低下、聴覚過敏、耳の痛み等の症状をともなうことがあります。ハント症候群では耳介・外耳道に痛みを伴った帯状疱疹を生じ、耳鳴・難聴・めまいなどの症状を伴うことがあります。
治療はステロイド製剤による薬物治療が主体となります。ウイルス感染による顔面神経麻痺が疑われる場合には抗ウイルス剤を併用します。ストレスや過労もこの病気に対してはよくないと言われています。病状などに応じて外来通院または入院治療を行います。ステロイド製剤によって血糖値が上昇しやすくなるので糖尿病などの基礎疾患がある場合は原則、入院の上、加療をおこなっています。
発症後2週間程度で顔面表情筋スコアの推移、誘発筋電図、神経興奮性検査などの電気生理学的検査により予後判定を行っています。予後不良と予想される場合は追加治療(顔面神経減荷術など))を追加して行う場合もあります。

~当院で行っている人工聴覚器の手術~

【高度難聴に対する人工内耳手術】

補聴器を使用しても日常会話がききとれないような両側高度難聴の方は人工内耳埋め込み術という手術によって聞こえが取り戻せる場合があります。高度難聴の原因はさまざまであり、中には原因不明の場合もすくなくありません。内耳の細胞のかわりになる電極を蝸牛内に埋め込み、さらに受信機を装着することによって機械的ではありますが、しっかりした音量で聴こえるようになります。当院では成人を対象とした人工内耳手術を行っております。若い人から超高齢者まで幅広い年齢層の患者様にこの手術を施行しております。また、人工内耳埋め込み術後は言葉をききとる訓練(リハビリテーション)が必要ですが、当院には複数の言語聴覚士が所属しており、術後のリハビリをはじめとする患者様の支援を行っております。また、低音の聴力は残っているけれども中~高音の聴力が特に悪いという方には補聴器と人工内耳が合体した残存聴力活用型人工内耳の埋め込み術を行っております。

【中等度難聴に対する人工中耳手術、埋め込み型骨導補聴器】

中等度難聴がありながらも補聴器の効果が乏しい方や耳漏などで補聴器が使用出来ない方、過去に鼓室形成術をうけたけれども聞こえがあまり改善しなかった方などに対する新しい方法として、人工中耳埋め込み術や埋め込み型骨導補聴器という人工聴覚器があります。どちらが適しているかについては患者様の耳の状態、難聴の程度、中耳炎の有無などによって選択します。従来の鼓室形成術では十分な効果がられなかった方でもよりよい聞こえを獲得できる可能性があります。

鼻領域の病気

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)

保存的治療で治らない慢性副鼻腔炎に対して、積極的に経鼻内視鏡手術を行なっています。高精細内視鏡やナビゲーションシステムを用いて、徹底した副鼻腔の開放治療を行うようにしています。
鼻の手術での一番の苦痛は、術後に鼻に詰めたガーゼを抜くこととされていますが、当科ではガーゼではなく綿状の止血剤を挿入します。鼻洗浄で大部分が流れますので、抜去の必要がなく、苦痛はほとんどありません。

鼻中隔わん曲症、肥厚性鼻炎

鼻中隔わん曲症や肥厚性鼻炎は、重症の鼻づまりの原因になり、手術でしか治すことができません。これらに対して、経鼻内視鏡を用いた鼻中隔矯正術や粘膜下下鼻甲介骨切除術を行っています。
特に高度な鼻中隔わん曲の場合、外鼻の変形を伴っている場合があります。鼻づまりを解消するのに必要であれば、外鼻形成術も行います。

鼻副鼻腔腫瘍

鼻にはさまざまな良性・悪性の腫瘍が発生しますが、顔面や目、脳が隣接しているため、簡単に取ることができません。手術に際しては、そのような重要な部位へのダメージを避けながら十分な治療ができるように、経鼻内視鏡や鼻外切開を適切に選択します。

頭頸部腫瘍

頭頸部腫瘍の診断は一般診察・のどの内視鏡検査に始まり、CT、MRI、PET-CT等の画像診断を行います。最終的には、質的診断として細胞診検査・生検病理検査を行います。診断が困難な場合には、入院して全身麻酔下に細胞を採取(生検術)を行う場合もあります。頸部のしこり(腫瘍、リンパ節など)であれば超音波検査時に穿刺吸引細胞診を行っています。甲状腺疾患や唾液腺疾患の診断には非常に有用です。口・のどの粘膜病変であれば、外来で、局所麻酔をして、病変の一部を切除して診断します。頭頸部悪性腫瘍のなかでも、甲状腺癌・唾液腺癌の治療は手術を中心に行っています。神経刺激器・手術用顕微鏡などを用いて、機能温存のため、細心の注意をはらって行います。また、顔の動き・声を出す声帯の動きを回復させるため、形成外科と合同で、神経再建手術も行っています。
口・のどの癌(口腔癌、喉頭癌、咽頭癌)は、病期に応じてさまざまな治療を行います。進行癌であれば機能低下は免れませんが、早期癌であれば、機能温存につとめ、可能な限り体に負担のかからない低侵襲な手術を行っています。早期の咽頭癌であれば、消化器内科と合同で、皮膚を切らずに、内視鏡手術のみで、病変を切除し、治癒することも可能です。
進行癌の場合、手術・抗癌剤・放射線治療の併用療法を行います。手術は、病変に応じて大きく切除せざるをえない場合もありますが、その場合、形成外科と合同で再建手術を行って機能回復につとめます。放射線・抗癌剤の治療を先行させることにより、病変が小さくなれば、大きな手術が不要になることがあり、患者様と相談して最善と考えれられる治療方針を決定しています。
セカンドオピニオン、または治験治療など当院でできない治療をご希望の場合は、他院を受診していただく場合もございます。最近では、新しい抗癌剤(分子標的薬など)での治療が可能となり、当科でも最新の治療を試みています。

舌癌

ほとんどが舌の粘膜の上皮細胞から生じる扁平上皮癌で、舌の両脇にあたる舌縁部に生じることが多く、他の頭頸部癌ほどではありませんが、40歳以降の男性に生じることが多い癌です。発癌の危険因子として喫煙や飲酒、不良歯牙による慢性刺激があげられています。ごく早期では潰瘍・白板症(舌粘膜の白色になる病気)と肉眼的に区別がつかないことがあり、専門医での生検が望まれます。
病気が進行すると痛み・出血・構音障害(しゃべりにくい)・嚥下障害(食べにくい)・開口障害などが現れ頚部のリンパ節に転移すると治癒率が低下します。早期舌癌では外科的レーザー切除術あるいは放射線治療も可能ですが、進行舌癌では外科的治療・放射線治療・化学療法(抗がん剤)の治療を組み合わせるのが一般的です。
進行舌癌の外科的治療では、他の進行癌と同様に形成外科医との合同手術で腫瘍の拡大手術・頚部郭清術(転移リンパ節を一塊にして切除する手術)と遊離皮弁による再建手術(ご自身の体の他部位から組織を一度切り離し、動脈静脈を吻合して頸部再建手術)を行います。
1992年1月から2001年12月までの10年間で、当科で治療した舌癌の5年生存率は64.3%でした。早期がんでは92.3%、進行癌では30.8%、他の口腔癌でも同様の結果でした。

喉頭癌

甲状腺癌を除く頭頸部癌では最も頻度の高い癌で、発声器官である喉頭の粘膜上皮から発生し、男性には女性の10倍以上の罹患率があります。
喫煙歴との相関が高く、その約7割は声帯の粘膜から発生(声門癌)し、比較的早期に嗄声(声がれ)の症状で判明することが多いです。嗄声が続く場合は良性の声帯結節・声帯ポリープなどの可能性もありますが、耳鼻咽喉科受診をおすすめ致します。耳鼻咽喉科外来で間接喉頭鏡、あるいは喉頭ファイバー(鼻孔から咽頭に内視鏡を挿入し咽頭・喉頭を観察できる機器)によって、容易に診断がつきます。
喉頭癌のなかでも、声帯より上方に発生するもの(声門上癌)は、比較的リンパ節転移が多く進行してから発見されることがあります。いずれの癌でも早期においては、放射線治療を中心に治療を行っています。また、癌が明らかに粘膜に限局するごく早期の症例においては、レーザー治療機器などを用いた外科的切除のみを行う場合もあります。
進行例においては、発声器官である喉頭を全摘出せざるを得ない場合もおこり得ますが、電気喉頭、気管食道シャント、食道発声などの術後の代用音声の獲得を目指しております。

唾液腺腫瘍

1992年4月から9年間での当科での手術治療実績は107例(良性82例、悪性25例)、そのうち耳下腺の腫瘍は88例(悪性14例)でした。術前診断はCT、超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診(FNA)を用いており、シンチグラフィは特殊例を除き必要ないと考えています。FNAの良性悪性に関する正診率は90%でした。
当科では手術時に神経刺激装置を用いて顔面神経を確認し、確実に神経を保存するようにしています。術後合併症としての永続的顔面神経麻痺は神経を保存した症例では1例もありませんでした。その他の合併症は唾液漏1例、血腫2例を認めましたが保存的に治癒しています。Frey症候群(食事にときに耳下腺領域におこる異常発汗、発赤、灼熱感を伴う現象)の発生頻度は18%でしたが、最近は予防する術式を採用しています。
悪性腫瘍の予後は悪性リンパ腫を除く19例についてKaplan-Meier法では5年生存率77.3%でした。悪性腫瘍の手術では顔面神経を合併切除することがありますが、神経移植による再建を3例に行っており完全麻痺を防ぐことが出来ました。

甲状腺腫瘍

甲状腺腫瘍は女性に多く、前頸部に腫瘍を認めることで気がつく場合がほとんどですが、声がかすれる、あるいは頸部のリンパ節が腫れるといったことで見つかることもあります。
1992年から11年間で当科での甲状腺腫瘍の治療実績は良性の腫瘍性病変95例、悪性腫瘍122例、計217例でした。診断には造影CTと、頸部超音波検査ならびに、超音波ガイド下での穿刺吸引細胞診(FNA)を行い、治療方針を決定します。当科で手術を行った症例でのFNAによる良性・悪性の正診率は87.4%でした。 良性の腫瘍の場合、手術は行わず経過を見ることが多いですが、悪性が疑われる場合や腫瘍が大きく美容的観点から問題になる場合や希望がある場合には手術を行います。 また悪性腫瘍の治療の基本方針は手術ですが、腫瘍の性状、位置、進展範囲について検討したうえで状況にあわせた手術を行うこととしています。
手術の合併症としては、甲状腺のすぐ後に反回神経という声帯を動かす神経があり、この部位が術後に麻痺をきたすことがあります。当科では腫瘍がこの神経に浸潤している場合を除き神経を保存するように手術を行います。神経を保存した症例では術後一過性の麻痺をきたすことはあるものの、麻痺が永続したのは200例中1例(0.5%)でした。さらに、どうしても癌が神経に浸潤して神経を切除しなければならない場合は、人工神経による再生医療も行っております。
さらに、甲状腺癌が気管に浸潤している場合、癌とともに気管の一部も合併切除しなければなりません。切除した気管を再建する方法として通常の治療では、自家組織(軟骨や皮膚)などを用いますが、手術回数が増え、自家組織採取や創部変形の後遺症がのこり癌再発などがわかりにくくなります。これに対して、当院では人工気管による気管再生を行い、手術も通常は1回のみです。気管切開も不要で、自己組織採取による後遺症などはありません。また、創面もきれいで気管再生した部分は正常の気管とほぼ同様の形態・機能を有するようになります。
甲状腺にできる悪性腫瘍では乳頭癌が最も多く、甲状腺にできる悪性腫瘍の90%以上を占めます。甲状腺乳頭癌は悪性腫瘍としては進行が速くないことが多く、当科で手術を行った109例での10年生存率はKaplan-Meier法で96.4%でした。
※また、手術によっては術後甲状腺ホルモンが少なくなる、あるいは出なくなるので甲状腺ホルモンを内服により補充しなければならない場合や、副甲状腺という血液中のカルシウム濃度を調節する部分の機能が低下するためビタミンD製剤やカルシウム剤などを内服する必要がある場合があります。

唾石症

唾石症は唾液腺やその導管内に結石が生じる疾患であり、そのほとんどは顎下腺に生じます。
顎下腺唾石については自然に排出されない限り外科的に摘出する必要があります。その方法には口の中に切開を加え唾石を摘出する口内法と頸部皮膚切開を行い顎下腺とともに唾石を摘出する外切開法があります。当科では傷が残らず、口角麻痺の可能性が無く、入院期間も短い口内法を第一選択としています。
手術前に双指診で唾石を触知する事の出来た32人の方では唾石の位置に関わらず口の中から摘出が出来ました。唾石が触知されない、顎下腺炎を繰り返している、口内法後の再発、腺内に複数の唾石を持っておられる方たちでは外切開法で摘出しています。

上皮小体(副甲状腺)機能亢進症

副甲状腺は甲状腺の両側の裏面に上下2個、計4腺存在します。この位置と数についてはしばしば異常が認められます。副甲状腺機能亢進症では副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌により血液中のカルシウム(Ca)の値が高くなり、その結果骨、腎臓を中心に全身性に多彩な病変を起こします。機能亢進症には副甲状腺に原因がある原発性と副甲状腺以外に原因があり二次的に副甲状腺に病変が発生する続発性の機能亢進症があります。
高Ca血症による症状は骨粗鬆症、異所性石灰化等による病的骨折、関節・骨痛が起こります。尿路結石、消化器症状、全身倦怠、意識障害などの症状も起こります。当科は内分泌内科、腎臓内科に協力して手術を行っていますが、原発性の場合は腺腫によることが大部分で腺腫の摘出術を行います。
続発性の場合には慢性腎不全のために透析治療を受けておられる方が大部分で四腺が腫大した過形成になっています。当科では四腺すべてを摘出し、その一部を前腕に移植することを原則としています。